最新記事
- 地大豆とは何か?(2012-2-7)
- 焼き豆腐の“形”の変遷(2012-2-7)
- リゾープスについて(2012-2-7)
- 平野蒟蒻(2012-2-7)
- 納豆チャーハン(2012-2-7)
「人間の声には、職業とその人の精神構造が滲みこんでいる」と、小説家の吉行淳之介(1924〜1994年)は記している。ある病院の待合室で本を読んでいると話し声が聞こえてきて、その声音に同業者だなと吉行が目を上げると、果たして文芸評論家の中村光夫(1911〜1988年)だったという。
「『声柄』という言葉があるが、それによって人柄まで判断できるかどうか」と問いかけながらも、自分自身ではできる気でいる吉行。ある日、男性の声で電話がかかってくる。「もしもし」という声だけで、これは同じ職業の人ではないなと吉行には分かった。男は刑務所に2年入っており、その間の日記を買ってくれないかと所望する。吉行は材料を使って小説を書かないので断ろうと思うが、男の「声柄」が気に入り、会うことにした。
「中年の男があらわれた。近県のヤクザの親分で、賭博の手入れをされて二年間ムショに入っていた、という。ロイド眼鏡をかけ、下町の商店主といった実直そうな風貌の人物で、きちんとネクタイを締めている。藁づとに入った納豆とヨーカンを、土産にくれた」。男は10冊ほどの大学ノートに細かく書き込んだ日記を持ってきた。吉行は拝見料を支払う。男は足を洗って、ささやかにカレーライス屋でも開きたいと言うのだが、その資金の何十分の一にもならない額だ。半月ほどして、再び男が訪ねてくる。「前と同じように納豆をもっている。あれは藁に入っていないと、どうも感じが出ない」。納豆菌は稲藁に多数生息しているから、藁づとに煮た大豆を詰めれば発酵して納豆ができる。そうして納豆を作るのが昔は当たり前だった。それを吉行も懐かしんでいるのだろう。男は財布を入れた上着を盗まれ、帰りの汽車賃がないと訴え、吉行は男に金を渡す。
男が3度目に訪れた時も納豆を持参して来たが、何も要求しなかった。雑談の挙げ句、「センセイ、ヤクザとつき合うときは、もうここまで、とピシャッとやらなくちゃいけませんよ。キリがなくなります」とアドバイスまで与える。「いったい彼の目的は何だったのか。小説家という種族を痛めつけてやろう、とでもおもっているうちに気が変ったのだろうか。その後、カレーライス屋開店のチラシを送ってきた。いまでも、年賀状がくる」とエッセーは締めくくられる。実直な風貌のヤクザと声柄の良さ、そして納豆の組み合わせがおもしろおかしい。

ホテルグランヴィア京都で開かれた京都府豆腐油揚商工組合の新年懇親会。
[ » 記事全文(トピックス) ]

社史を読むだけでも永持孝之進名誉会長経営哲学が見える1冊。
[ » 記事全文(書籍紹介) ]