豆腐横丁

豆腐店のマーケティングと家族従業(2)

2010-1-15

ありがたいことに、少しずつ評価してもらえるようになった。インターネットの普及などによって都市部との情報格差がなくなり、立地のハンデが解消されたためで、百貨店のバイヤーからも声がかかるようになった。百貨店の客層は品質重視だから作り手の思いも伝わり、軌道に乗った。

衛生管理見直す

製造量が増えるにつれ、次にぶち当たった壁が衛生管理。2000年に起きた雪印乳業(当時)の食中毒事件がきっかけとなり、食品業者の衛生管理に対する世間の目がかなり厳しくなった。このころの衛生管理は自己流で、見た目は清潔だったが、外部機関に見てもらうといくつかの落ち度があった。

当時、ジャスコに納めている大手豆腐メーカーの工場を見学させてもらった。ジャスコから要求される衛生管理項目は300ほどあり、7割以上をクリアすることが条件だった。見学した工場は94%クリアと高得点だったが、社長は衛生管理に対する意識が高く、「少しでも気を抜けば下回る」と言う。それを聞いて自分も本気になった。

おいしい豆腐を作るのは当たり前で、全国に発信していくためには衛生管理の行き届いた工場を作る必要があると痛感し、現在の白峰工場を新築する計画を立てた。

そうすると、従業員の雇用も必要になる。それまで家族経営だったから家族の理解や協力が欠かせないが、母親は「生活できる利益さえ得られれば、それでいい」と言って聞かない。しかし夢はあきらめられず、「うまくいくかどうかは分からないが、今のままだといずれは廃業に追い込まれる。存続させるには絶対にやらなければならない」と何度も説得して理解を得ることができた。

そして家業を法人化し、就職フォーラムに参加するなどして求人活動を進めた。「大きな荒波がきたら転覆するかもしれないが、その時はまた一から出直せばいい。それぐらいの根性は持ち合わせている。全体を光らせることはできないかもしれないが、小さくても光り輝く豆腐屋にはなれる」と熱く呼びかけ、それに共感してくれる従業員が一人、また一人と増えていった。

「おいしい」提供

現在、社内では「何のために働くのか」について常に考え続けている。「生活の維持のため」「社会人の義務として」「お金のため」「学ぶため」など動機は様々で正解などないが、自分自身はこれらに加え、「与えるため(おいしい豆腐を提供するため)」に働いている。なぜそんなことを考え続けているのかというと、いつの間にか学ぶ姿勢を忘れてしまい、仕事が作業になってしまうのを防ぐため。「もっとお客に喜んでもらいたい」という気持ちを常に忘れないように心がけている。

さらに豆腐をただ作るのでなく、その先のお客まで見ることが大事。何のために豆腐を作るのか、広い視野を持って意識を変えれば、やりがいも生まれる。自分の仕事が後になってどういう機能を果たすのかを知った上で真剣に取り組めば、現パナソニックの創業者、松下幸之助さんのような成功者になれるのではないか。松下幸之助さんのように全体を照らすことはできないかもしれないが、小さくても光り輝きながらお客に喜んでもらえる豆腐屋になりたい。(終わり)

山下浩希氏(山下ミツ商店社長/富山大学教養教育科目「日本の企業経営」での講演より)

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